暗い夜道を、やっくんと並んで歩く。一人きりで歩く夜道は少し苦手だけど、やっくんが隣にいると、不思議と安心できる気がした。
今日の晩御飯は何にしようかと考えるが、思いつかない。スーパにあるものを見て決めようか、などと考えながら歩いた。
最寄りのスーパーへは歩いて五分ほどで到着した。
「これは……ずいぶんと明るいな。……祭りの時以上だ」
店の手前で、やっくんが立ち止まる。ほんの少し目を細めながら、店の入り口に吸い込まれていく客たちを興味深そうに眺めている。
「夕方だからね。みんな今から晩ご飯の買い出しなんだよ」
「千春。あれはなんだ」
他の客が買い物カートを押すところを見ながら言う。
「あのカゴに商品を入れて店の中を移動するんだよ。最後にまとめて会計するの」
「なるほど」
店内に入る前に、私は被っていた帽子を脱いでやっくんの頭に被せた。
「?」
「これで少しは眩しくないでしょ」
店内に入ると、今度は商品の多さと人の多さに圧倒され、立ち尽くしていた。私は軽くやっくんの袖を引いてから、買い物カートにカゴを乗せた。
歩き出してからも、やっくんはそわそわと辺りを見回していた。
「どうしたの?」
「どこかから、ずっと何かが聞こえてくる……」
ああ。たぶん、店内BGMのことだろう。私は少し笑った。
「気になるよね。でも、そんなに気にしなくていいよ。賑やかな雰囲気にしてるだけだから」
「はあ……そういうものなのか」
まずは野菜売り場から見ていく。長ネギは必須。それから、葉物野菜と大根と……。選びながらカゴに入れていく。
ふとやっくんの方を見ると、果物売り場の方を食い入るように見つめていた。
「何か食べたいものある?」
「あ、いや。甘い香りが気になって」
「どれ?」
やっくんはバナナとリンゴが気になったみたい。バナナを一房とリンゴを二つ取ってカゴに入れた。
やっくんが申し訳なさそうな顔をする。
「今日のデザート。一緒に食べよ」
それから、豆腐と油揚げと納豆を取る。魚売り場はスルー。理由は、高いから。魚は冷凍したものを通販で買う方がコスパがいい。銀ジャケは冷凍ストックを常備している。
肉売り場でいつものように鶏胸肉や豚肉を選ぼうとして、さっき採血したことを思い出す。
今後やっくんに定期的に血をあげるなら、貧血対策が要る。そう考えて、普段はあまり選ばないレバーを取った。
レバーがあるならレモンも欲しいなと思う。でもまあ、ポッカレモンでいいか。
牛乳とヨーグルトと卵をカゴに入れたら、それだけでまあまあな量になった。パンとおやつは諦めることにした。
レジへ向かい、セルフレジでバーコードを読み込む。ピッと音が鳴る。一つずつ、エコバッグの中に詰めていく。私が淡々と手を動かす様子を、やっくんは黙って凝視していた。バーコードの読み込みが終わったら、最後にスマホをかざして決済した。
「……今のは?」
「スマホのバーコード決済。これでお金が払えるの。……ふふっ。不思議だよね。私が子供だった頃も、こんなのなかったよ」
「……ということは、最近できたのか」
「そうなの。技術の進歩ってすごいよねー。何でも一瞬で終わるからびっくりしちゃう」
「……本当に、そうだな」
エコバッグを持ち上げてカゴと買い物カートを戻し、店を出る。
「持とう」
やっくんが手を差し出してきた。
「いいの? ありがとう」
袋を手渡すときに、一瞬だけ指先が触れた。やっくんの手は温かかった。
歩きながら、ふと思い出してやっくんに話しかける。
「そういえば。さっき聞きそびれてたけど、やっくんって何なの?」
「……私は妖怪だ」
「妖怪?」
「昔は野衾と呼ばれていた」
のぶすま。全く聞いたことがない。あとで調べてみよう。
「家を守る『守り神』として、人々に崇められていたこともあるのだぞ」
「へー。なんかかっこいいね」
そんな話をしながら歩いていたら、あっという間に家に到着した。買ってきたものを冷蔵庫に片付ける。献立はもう決まっているけど、作るのは少し休憩してからにしようと思い、ソファーに腰掛けた。
「千春、包丁はどこだ。あと、塩はあるか」
「包丁はシンクの下。塩はそこのプラケースに……」
……待って。もしかしてやっくん、料理しようとしてくれてる!?
やっくんは、立てかけてあったまな板を取ってキッチンの作業スペースに置くと、シンク下の戸棚を開けて包丁を迷いなく取り出した。それから、キッチンの端に置いてある塩を発見し、軽く頷く。
「座って休んでいろ」
冷蔵庫からさっき買ってきた野菜を取り出すと、慣れた手つきで切り始めた。
家事だけじゃなく料理もできるの!? 妖怪ってそういうものなの!?
昨日拾ったばかりなのに、なんだか家の中がどんどん快適になっていく。
やっくんの後ろ姿を見ながら、私はただただ困惑していた。
でも、ちょっと嬉しい。
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