ネメシスはなぜ負けたのだろうか。
単純に考えれば、答えは「セイロスが強かったから」になる。
しかし、本当にそれだけなのだろうか。
闇に蠢く者たちは、神を超えるための準備を長い時間をかけて進めていた。
女神の眷属の遺骸から英雄の遺産を作り、その血を人間に与えることで、神に対抗できる力を持つ者たちを生み出した。
それが、ネメシスとフォドラ十傑だった。
彼らにとって、人間が神の力を持つことは目的だった。
神を超越すること。
それこそが、敗北した古代文明の末裔である彼らの悲願だったのだろう。
だが、彼らには一つの誤算があった。
神の側も、同じ禁忌を犯したことだ。
セイロスは仲間を奪われた。
母の遺した世界を守りたかった。
そして、人間たちを滅ぼすことも望んではいなかった。
しかし、そのすべてを守るためには、もはや自分たちだけでは足りなかった。
だからこそ、彼女は人間に血を与えた。
本来であれば、神の力を人間に与えることは禁忌だったはずだ。
だが、他に手段はなかった。
こうして生まれたのが、後の四聖人の血筋である。
現在のフォドラでは「祝福」として扱われている紋章。
しかし、その始まりは戦争を生き延びるための非常手段だったのかもしれない。
闇に蠢く者たちは、人間に神の力を与えるという発想を、自分たちだけの切り札だと考えていたのではないだろうか。
神はそんなことをしない。
神には思いつかない。
あるいは、思いついてもやらない。
だが、セイロスはそれを行った。
ネメシスが負けた理由は、セイロスが強かったからではない。
神の側が、自ら禁忌を犯したからだった。
そして、闇に蠢く者たちは敗北したのだろうか。
私は、少し違うように思う。
彼らは負けたのではない。
勝ちの定義を奪われたのだ。
彼らが望んだのは、人間が神を超えることだった。
しかし現実には、神自身が人間に力を与え、人間社会の中へと組み込んでしまった。
神を超越するための技術は、神によって利用され、管理されるものへと変わった。
こうして、ネメシスの敗北後も紋章は残り続ける。
祝福として。
権威として。
そして、人の人生を歪ませるものとして。
フォドラの歴史とは、神の勝利の歴史ではない。
神もまた禁忌を犯し、その結果生まれた歪みを管理し続けた歴史だったのかもしれない。



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