一次創作『ラクリマ・ディアの連結子』第三章です。
護衛と魔導士。 二人で旅をしている。
旅の中で、関係と距離が少しずつ変わっていく。
でも、それが何なのかは、まだわからない。
◾️あらすじ
王都へ向かう旅路の中で、
二人は一定の距離を保っていた。だが、その均衡は唐突に崩れる。
離れれば不安になる――
そんな不完全な状態の中で、
二人は距離を縮めることを選んだ。関係は成立しない。
それでも距離だけは、確かに近づいていく。
朝食を済ませ、次の街へ向かう。
ハルモンが疲れきってしまわないよう、ハルモンの歩幅を意識して歩くようにした。
今日のハルモンは、なんだか調子が良さそうだ。
「実は今日、『歩く速度が“合ってるかどうか”だけ分かる薬』を飲んでみたんだ。……今、完璧」
「……だから何だ」
次の街へは、昼頃には到着した。
昨日とほぼ同じくらいの距離だったように思う。
昼食の後、宿を取って一休みしていると、ハルモンが口を開く。
「昨日より疲れてないかも。きっと、速度が完璧だったからだね」
「それはよかったな。……少し散歩でもするか?」
「賛成ー!」
宿に旅の荷物を残し、俺とハルモンは部屋を出た。
街の中を散策していると、ふと、静かな歌声が聴こえてきた。
歌声の聴こえる方へ歩いて行くと、そこには石造りの礼拝堂があった。
眺めていると、歌声は止み、少しすると礼拝堂からたくさん人が出てきた。
礼拝が行われた後らしい。
香に引かれて礼拝堂へ近づくと、扉が開けられた出入り口から、中の様子がよく見えた。
ステンドグラスごしに差し込む光が、光沢のある床材に反射して、とても美しい。
ハルモンが中に入って行くので、俺も後ろから続く。
上の方を見ようとしたハルモンが、深く被っていた頭のフードを外した。
外した瞬間、空気が変わった。
俺はようやく、ハルモンが周りの視線を集めていることに気がついた。
「……失礼ですが、貴方はセレノア様のご子息様では?」
司祭がこちらに近づき、ハルモンに話しかけてきた。
「そうですが……。母を知っているんですか?」
「ええ、もちろん。その髪、その瞳……女神様の祝福を最も色濃く受け継いでいらっしゃる。……こうしてお会いできたこと自体が、奇跡でございます」
司祭はそう言うと、胸の前で手を組み合わせ、深々と頭を下げた。
「これもきっと、女神様のお導きなのでしょう。……よろしければ、あちらで少しお話しをさせていただいても?あなた様の王都でのご活躍、ぜひお聞かせいただければと……」
ハルモンは少し黙った後、こう言った。
「……わかりました。僕は、薬のことでしたら相談に乗れますよ」
「ありがとうございます……。では、お付きの方もご一緒に、どうぞこちらへ」
そのまま、奥の応接間に通された。
部屋の真ん中に、高さのないテーブルと、高価そうな一人掛けソファーが二脚、置かれていた。
司祭にソファを勧められたハルモンは座り、俺はその斜め後ろに立った。
後ろで、戸が閉められる音がした。
二人は、しばらく王都の話や、ハルモンの作る薬を話題に雑談をしていた。
司祭は話しが上手く、場は和やかな空気に包まれている。
そんな中、一瞬間を置いて、司祭が「実は、貴方様にお願いがございます」と切り出した。
「現在、こちらでは女神様の血を継ぐ方を二名、保護という形でお預かりしております。ですが……その力は不安定でして。同じ血を引く方の存在が、心身の安定に寄与する可能性があると考えております」
「……それは、そうだと思います。心身が安定していなければ力を行使できないのは、僕たち魔導士も同じです」
「ええ。……それで、もしご協力いただけるのでしたら、今後の在り方についても、教会として最大限の配慮をお約束しましょう」
その言葉を聞いた瞬間、理解した。
いつの間にか、ハルモンの選択が奪われている。
「……それは、誰が決める話だ」
俺がそう口にした瞬間、場が静まり返った。
司祭は言葉を失っていたが、再び口を開く。
「……ですから、ご協力いただけるのであれば、こちらとしても配慮をすると……」
「それは、本人が“選べる”場合の話だ」
俺は前へ進み出ると、座っていたハルモンの腕を掴み、その場に立たせた。
「俺は、こいつが“選ばされる”話を聞きに来た覚えはない。……行くぞハルモン」
後ろから静止の声が聞こえたが、俺は構わずハルモンの腕を引き、閉められた扉を開ける。
そのまま、足早にその場を後にした。
礼拝堂を出た俺とハルモンは、宿へと急ぐ。
道中、周囲を警戒した。
幸い、礼拝堂から追っ手が出てくることはなく、周囲にも怪しい人間はいなかった。
宿へ到着し、部屋に戻ると俺はすぐに扉に鍵をかけた。
窓から外を見て、怪しい人間がいないことを確認した後、装備を外した。
ハルモンの方に目を向けると、ベッドの端に座ったまま、視線を落としている。
「……さっきの話だが」
俺が口を開くと、視線を上げた。
青い瞳が、ほんの少し揺れている。
「あれは、“協力”の話じゃない。お前に、選ばせないための話だった」
そう言うと、ハルモンはまた視線を落とす。
「……そうなんだ」
部屋の中に沈黙が流れる。
少しして、またハルモンがゆっくりと顔を上げて、視線が合う。
「……怖い顔してたよ」
その顔には、どこかずれた笑みが浮かんでいた。
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