一次創作『ラクリマ・ディアの連結子』の第一章です。
ある守護者と、世界を守る役割を担う存在が出会い、まだ何も失われていなかった頃。
日常を重ねていくまでを記録しています。
◾️あらすじ
港町でトラブルに巻き込まれた魔導士ハルモンは、“獣哭のカライス”と呼ばれる騎士に助けられる。
この出会いが、
二人の奇妙な関係の始まりだった。――それが、すべての始まりだった。
そのまさかだった。
ついさっき、海賊に絡まれていた“女のような顔をした男”が、今度は街の女たちに取り囲まれている。
「……おい。お前たちいい加減にしろ」
低い声で睨みをきかせると、人だかりはすぐに消えた。
まるで、蜘蛛の子を散らすかのようだ。
真ん中にいた男は、先ほどよりも服が乱れており、後ろで纏められた金髪も、ゆるんでほどけかけていた。
近づいて、声をかける。
「……おい。行くぞ」
男はきょとんとして動かない。
俺は男の腕を掴み、そのまま商店街を通り過ぎて街の出口の方へ向かう。
「あの….…どこへ……?」
「人目のないところへ行く。……少し黙ってろ」
先ほど助けてくれた大柄の男にまた助けられ、腕を引かれていく。
そのまま街を出て、森の中へ連れて行かれた。
力が強く、全く振り解けない。
(どこに連れていかれるんだろう……)
僕の不安とは裏腹に、連れてこられたのは、見晴らしの良い丘の上だった。
その場所からは、街と港、そして海を一望することができた。
心地の良い風が吹いて、胸のつかえが解けていく。
「……あの、また助けてくれてありがとう」
「別に。ただの習慣だ」
習慣。
そうなのかもしれない。
だけど、僕はその言葉の中に、彼の優しさを感じずにはいられなかった。
「……あのさ」
海を見ていた彼が、ちらりとこちらに目を向けてくる。
「僕、顔が目立つんだよね。だからいつも絡まれて大変なんだ。……ここへは、買い物しにきただけなんだけどね」
彼は、僕のことを他の人達みたいにジロジロ見てこなかった。
だからなのか、つい気が緩んでそんなことを言ってしまった。
言ってから少し不安になって、彼の顔を覗き見る。
でも、彼は表情一つ変えない。
「それは災難だったな」
それだけ。
ほっとして、つい笑顔になってしまう。
「……君が一緒にいてくれたらはかどりそうなんだけどな。今日だけ護衛してくれない?」
なんて冗談ーーと言いかけたところで、彼からの返答は予想外のものだった。
「別に構わん。今日は非番で、用も済んだところだ」
「ほ、ほんとに!?」
「……このままお前を放置したら、またあちこちで騒ぎが起こるのは目に見えている」
彼は、「さっさと済ますぞ」と言い、丘を下っていく。
僕は慌ててその後ろ姿を追いかけた。
「へぇ、やっぱり君は騎士なんだね。さっき初めて会った時、強そうだなって思ったんだ」
「……別に大したことじゃない。たまたま、他のことより剣が得意だっただけだ」
お互いのことを話題に、雑談しつつ港の市場を見て回っていた。
……この男、見た目は大人しそうな風貌なのだが、口を開くとよく喋る。
「……あ! これ探してたんだ! 今作ってる『集中力が散る煙』にも使えそう」
「集中力が散る……? 何に使うんだ」
「思考が横道に逸れるようになるから、逆の薬を作る前段階になるかと思って。まだ使い道は決めてないけど」
俺は、何て返していいか分からず黙った。
今日、ここまで同行したことで、この『女のような顔をした金髪のとても目立つ男』はハルモンという名であること。
そして、薬作りや呪いを生業とするいわゆる『魔導士』で、王都から薬の材料を求めてこの街を訪れていたことが分かった。
あと、真面目な顔でよく分からないことを考えている奴だということも、分かった。
しばらく連れ回され、ようやく買い物が終わったらしい。
こちらへ向くと、ハルモンはにっこり微笑んだ。
「今日は本当に助かったよ! …はい。これ今日の護衛の報酬」
そう言うと、皮の巾着袋から銀貨を取り出し、こちらの手に押し付けてきた。
「報酬?後ろに立ってただけだぞ」
「それでも助かったから受け取って。……ねえ、この街に来た時は、またお願いしてもいい?」
その言葉に、少し黙った。
でも、断る理由も思いつかなかった。
「ああ……非番の時ならな」
「ありがとう! ……あ、あとよかったらこれもいる?『声が一音だけ低くなる薬』なんだけど」
「……なぜ」
「君が、今よりもさらにカッコ良くなるかと思ってさ!でもまあ、効果は一時間くらいしか保たないんだけどね」
「俺の声で遊ぼうとするな」
この出会いの後、街ではこんな噂が聞かれるようになった。
「この前、市場であの『獣哭のカライス』がものすごい美人を連れて歩いてたって話、聞いた?」
「ずいぶん絵になる組み合わせだったらしいよ」
俺は、すべてを聞こえなかったことにした。


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