一次創作『ラクリマ・ディアの連結子』の第二章です。
救いは、いつも正しいとは限らない。
人を救うために差し出された手は、 どこまで届き、どこから壊れていくのか。
魔導士と剣士。
二人の関係が、静かに形を変えていく物語。
——その選択が、すべてを変えるまで。
◾️あらすじ
港町マレディアを襲った炎は、
すべてを奪い去った。人々を救うため、ハルモンは力を使い続ける。
その代償として、自らの身体と日常を失いながら。“女神”と呼ばれる存在と、
それを支える騎士。救いは、本当に正しいのか。
その選択が、二人の関係を大きく変えていく――。
その日の夜。
夕食を手にハルモンの天幕を訪れた。
散らかった天幕の中で、ハルモンは『女神の涙』を持って眺めている。
「……ハルモン。それは、どういう物なんだ?」
つい、そう尋ねてしまった。
ハルモンは石に向けていた視線を、こちらに向ける。
「そうだな……。簡単に言えば、『離れた距離で意思疎通を可能にするための媒介』なんだ。繋ぎ手は、繋ぎ手同士で、離れていても意思疎通ができるのは有名だろう?」
「ああ。……女神様が残したと言われている」
「そうそう。人が争わずに繋がって、仲良く暮らせるようにってやつだね。……で、この石を使えば、僕たち普通の人間も似たようなことができるようになる。……まあ、そのままでは使えないんだけど」
「……そうなのか?」
「うん。詳細は省くけど、女神の力を持つ者が力を込めて固定することで、他者との対話が可能になる。君も知っているように、女神の力がなくても、誰でもね。便利でしょ?」
「……たしかに、すごいな」
「うん。……この石は本当にすごいんだ。持っていると、まるで女神に語りかけられてるみたい。……不思議だよ」
「そうなのか……。食事、置いておくぞ。後でまた片付けに来る」
「うん!ありがとう」
ハルモンの天幕を後にする。
先ほど聞いた話を思い出しながら、張られた天幕の間を歩く。
(対話ができる石……。まるで、生き物みたいだな)
そう思ったら、そのことがしばらく頭から離れなかった。
九日目の朝、俺は今日も食事を持ってハルモンの天幕を訪れた。
「……今日は散らかってないな。調子悪いのか?」
ハルモンは、ほんの少しだけムッとした。
「ちょっと、それどう言う意味?……実は、昨日見つけた『女神の涙』を、父さんに持って帰って来いって言われてるんだ。だから、そろそろ家に帰ろうと思って」
家に、帰る。
急な話に、呆然としてしまった。
「帰るって……まだ病み上がりだろう。王都まで歩くの、平気なのか?」
「うん。たぶん体力落ちてそうだし、時間かけてゆっくり帰ることにするよ」
「…………」
「……カライス君?どうしたの?」
「いや……なんでもない。……これ、置いておく」
「うん。……ありがとう」
天幕を後にした後、そのまま荷運びや片付けなどの作業を始めるが、途中でふと立ち止まっては、作業の手が止まっていることに気がつく。
ハルモンが家に帰ると聞いてから、なんとなく悪い予感がして、心が落ち着かない。
(帰りの途中でハルモンの身に何かあったら)
(また倒れでもしたら、どうするんだ)
……もし、また間に合わなかったら?
そう思ったら、もう止まらなかった。
僕は食事を終えた後荷物をまとめて、そのまま寝床に座って待っていた。
(カライス君、来ないな……。今日は忙しいのかな)
立ち上がる。
食べ終えた食器が乗ったお盆を持ち、天幕を出た。
近くにいた騎士に声をかける。
「おはようございます。……これはどこに片付けたらいいですか?」
「おはようございます!あちらにお願いできますか?」
「分かりました」
指し示された場所へ行くと、使用済みの食器が重ねられていたので、自分のものもそこに置いた。
「これでよし。……帰ること、伝えないと」
僕は、手の空いていそうな騎士を探して、天幕の間を歩いていった。
僕は、マレディア港湾騎士団の団長の元を訪れ、仕事のために王都へ帰ることを伝えた。
団長からは、改めて人命救助に当たってくれた感謝を伝えられた。
こちらからも、世話になったことに対しお礼を言い、その場を後にする。
(カライス君にもちゃんとお礼をしないと)
あちこち探したが、作業をしている騎士たちの中には見当たらない。
結局、自分の寝泊まりしていた場所まで戻ってきてしまったのだが。
そこに、大柄な男--カライス君の姿があった。
「カライス君、探したよ。……ねぇ、その格好……」
カライス君は、もう騎士団の鎧を身につけていなかった。
代わりに、背中に少しの荷物と剣を持っている。
「ハルモン。俺は、今日で騎士を辞めた。……王都まで、お前に付き添う」
「カライス君……」
一瞬だけ、言葉に詰まる。
だけど、これはカライス君が自分で決めたこと。
それを止める権利も、理由もない。
そう思った。
「……うん、わかったよ。……ありがとう。」
こうして、二人は街の人々と騎士団員たちに見送られ、マレディア港を後にした。
今日もこの場所には、昔から全く変わらない風が吹いている。
それは、潮の香りのする海風だった。
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