#8選択の確定

一次創作『ラクリマ・ディアの連結子』の第二章です。

救いは、いつも正しいとは限らない。

人を救うために差し出された手は、 どこまで届き、どこから壊れていくのか。

魔導士と剣士。

二人の関係が、静かに形を変えていく物語。

——その選択が、すべてを変えるまで。

◾️あらすじ

港町マレディアを襲った炎は、
すべてを奪い去った。

人々を救うため、ハルモンは力を使い続ける。
その代償として、自らの身体と日常を失いながら。

“女神”と呼ばれる存在と、
それを支える騎士。

救いは、本当に正しいのか。
その選択が、二人の関係を大きく変えていく――。

その日の夜。

夕食を手にハルモンの天幕を訪れた。

散らかった天幕の中で、ハルモンは『女神の涙』を持って眺めている。

「……ハルモン。それは、どういう物なんだ?」

つい、そう尋ねてしまった。

ハルモンは石に向けていた視線を、こちらに向ける。

「そうだな……。簡単に言えば、『離れた距離で意思疎通を可能にするための媒介』なんだ。繋ぎ手は、繋ぎ手同士で、離れていても意思疎通ができるのは有名だろう?」

「ああ。……女神様が残したと言われている」

「そうそう。人が争わずに繋がって、仲良く暮らせるようにってやつだね。……で、この石を使えば、僕たち普通の人間も似たようなことができるようになる。……まあ、そのままでは使えないんだけど」

「……そうなのか?」

「うん。詳細は省くけど、女神の力を持つ者が力を込めて固定することで、他者との対話が可能になる。君も知っているように、女神の力がなくても、誰でもね。便利でしょ?」

「……たしかに、すごいな」

「うん。……この石は本当にすごいんだ。持っていると、まるで女神に語りかけられてるみたい。……不思議だよ」

「そうなのか……。食事、置いておくぞ。後でまた片付けに来る」

「うん!ありがとう」

ハルモンの天幕を後にする。
先ほど聞いた話を思い出しながら、張られた天幕の間を歩く。

(対話ができる石……。まるで、生き物みたいだな)

そう思ったら、そのことがしばらく頭から離れなかった。

九日目の朝、俺は今日も食事を持ってハルモンの天幕を訪れた。

「……今日は散らかってないな。調子悪いのか?」

ハルモンは、ほんの少しだけムッとした。

「ちょっと、それどう言う意味?……実は、昨日見つけた『女神の涙』を、父さんに持って帰って来いって言われてるんだ。だから、そろそろ家に帰ろうと思って」

家に、帰る。

急な話に、呆然としてしまった。

「帰るって……まだ病み上がりだろう。王都まで歩くの、平気なのか?」

「うん。たぶん体力落ちてそうだし、時間かけてゆっくり帰ることにするよ」

「…………」

「……カライス君?どうしたの?」

「いや……なんでもない。……これ、置いておく」

「うん。……ありがとう」

天幕を後にした後、そのまま荷運びや片付けなどの作業を始めるが、途中でふと立ち止まっては、作業の手が止まっていることに気がつく。

ハルモンが家に帰ると聞いてから、なんとなく悪い予感がして、心が落ち着かない。

(帰りの途中でハルモンの身に何かあったら)

(また倒れでもしたら、どうするんだ)

……もし、また間に合わなかったら?

そう思ったら、もう止まらなかった。

僕は食事を終えた後荷物をまとめて、そのまま寝床に座って待っていた。

(カライス君、来ないな……。今日は忙しいのかな)

立ち上がる。

食べ終えた食器が乗ったお盆を持ち、天幕を出た。

近くにいた騎士に声をかける。

「おはようございます。……これはどこに片付けたらいいですか?」

「おはようございます!あちらにお願いできますか?」

「分かりました」

指し示された場所へ行くと、使用済みの食器が重ねられていたので、自分のものもそこに置いた。

「これでよし。……帰ること、伝えないと」

僕は、手の空いていそうな騎士を探して、天幕の間を歩いていった。

僕は、マレディア港湾騎士団の団長の元を訪れ、仕事のために王都へ帰ることを伝えた。

団長からは、改めて人命救助に当たってくれた感謝を伝えられた。

こちらからも、世話になったことに対しお礼を言い、その場を後にする。

(カライス君にもちゃんとお礼をしないと)

あちこち探したが、作業をしている騎士たちの中には見当たらない。

結局、自分の寝泊まりしていた場所まで戻ってきてしまったのだが。

そこに、大柄な男--カライス君の姿があった。

「カライス君、探したよ。……ねぇ、その格好……」

カライス君は、もう騎士団の鎧を身につけていなかった。

代わりに、背中に少しの荷物と剣を持っている。

「ハルモン。俺は、今日で騎士を辞めた。……王都まで、お前に付き添う」

「カライス君……」

一瞬だけ、言葉に詰まる。

だけど、これはカライス君が自分で決めたこと。

それを止める権利も、理由もない。

そう思った。

「……うん、わかったよ。……ありがとう。」

こうして、二人は街の人々と騎士団員たちに見送られ、マレディア港を後にした。

今日もこの場所には、昔から全く変わらない風が吹いている。

それは、潮の香りのする海風だった。
















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この記事を書いた人

関係性オタク。
成立しない関係を、成立させてしまう物語。
救いより納得。
読むと、脳が焼けます。
構造分析×一次創作
添削・相談もやってます。

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