#7境界の侵食

一次創作『ラクリマ・ディアの連結子』の第二章です。

救いは、いつも正しいとは限らない。

人を救うために差し出された手は、 どこまで届き、どこから壊れていくのか。

魔導士と剣士。

二人の関係が、静かに形を変えていく物語。

——その選択が、すべてを変えるまで。

◾️あらすじ

港町マレディアを襲った炎は、
すべてを奪い去った。

人々を救うため、ハルモンは力を使い続ける。
その代償として、自らの身体と日常を失いながら。

“女神”と呼ばれる存在と、
それを支える騎士。

救いは、本当に正しいのか。
その選択が、二人の関係を大きく変えていく――。

七日目の朝。

俺は今日も朝食を届けに、ハルモンの天幕を訪れた。

「ハルモン、入るぞ」

「はーい」

中に入ると、天幕内に薬の匂いが充満していた。

見ると、床や寝床の上まで、薬草と薬道具が広げられており、足の踏み場も無いような状況だ。

ハルモンは鼻に眼鏡をかけており、真剣な表情で何かを混ぜている。

「……元気になったと思ったらこれか」

「つい楽しくなっちゃって……。なんか、朝は頭も冴えてて良いね。……これからは心を入れ替えて朝型になろうかな」

「できるといいな。……とりあえず一回片付けろ。朝飯を置く場所もないぞ」

「ごめんごめん!ちょっと待ってね」

散らかったものをひとまず端に寄せ、食事を置いた。

「……今日はどうする。また出かけるなら付き添うが」

「そうだなぁ。採集もいいけど……とりあえず今やってる調合を試し終わってからにするよ。今良いところなんだ。『朝日が眩しくなくなる目薬』」

「……なんて?」

「この間、朝日が眩しかったから。徹夜明け限定で、朝日が『まあまあ我慢できる』明るさになるよ!」

「徹夜するな。寝ろ」

昼食を食べ終えた午後。
僕は昼寝をしようと天幕の寝床で横になっていた。
すると、枕元に置いてあった《連結子》が輝き出した。

手に取って起き上がり、寝床に座り直す。

『ハルモン、よかった。もう起きていたか』

「……もう。父さんは、僕がいつも昼まで寝てるみたいに」

『実際寝ているじゃないか……。それより、昨日の魔道院での会合で火災の話が出てな。マレディアの旧礼拝区画から『女神の涙』が取れるのではないかと』

「あー……。それを確認して来いってこと?」

『いや、教会側との話し合いはもう終わっている。もし見つけたら、王都へ持って返って来てくれ』

「……わかった。けど、ちょっと時間かかるかもよ?」

『もちろん、分かっている。……体調もまだ万全ではないだろう?話は通しておくから、ゆっくり戻って来い』

「はーい」

《連結子》が静かになると、僕は寝台に寝転んだ。

(『女神の涙』。自分で採集するのは初めてだな。……正直、一人で掘るのは体力的にキツそう。明日、カライス君に頼んでみるか……)

そう算段をつけ、僕は目を閉じた。

八日目の朝、カライス君が朝食を持ってきてくれたときに、僕は「手伝ってほしいことがある」と切り出した。

「なんだ?」

「昨日、父さんから仕事を頼まれたんだ。マレディアには礼拝堂があっただろう?その区画に、これの材料があるかもしれないから、あれば取ってきてくれって」

これだよ、と《連結子》を取り出して見せる。

カライス君は、怪訝そうな表情を浮かべた。

「確か、貴重な材料を使っていると言っていたな。……だが、なぜその場所に?」

「材料は『女神の涙』って呼ばれてるんだけど、祈りの力が結晶化したものなんだって。だから、女神由来の場所で見つかることが多いって聞いた」

「そうか……。だが、あそこも完全に焼け落ちてしまっているぞ」

「……燃えた建物を除けて、掘り起こすしかないね。……僕一人じゃ、とても無理なんだ。だから、手伝ってほしい」

そう伝えると、カライス君はしばらく黙った後、諦めたように息を吐いた。

「……仕方ないな。手の空いてる奴がいたら、作業を手伝ってもらえるよう、声をかけておく」

「本当!?助かるよ!ありがとう〜!……あ、そうだ!」

鞄に手を突っ込んで、ゴソゴソと探る。
中から薬瓶をひとつ取り出すと、カライス君に見せた。

「これ前に作った『筋肉痛が一瞬だけ消える塗り薬』なんだけど、お礼に配ろうかな」

「……一瞬……?意味、あるのか……?」

カライス君は薬瓶を手に取る。
少しだけ眺めた後、何も言わずに僕の鞄にそっと戻した。

ハルモンの仕事を手伝うため、俺と騎士の同僚たちは旧礼拝区画を訪れていた。

俺が応援を呼びかけたところ、「女神様の力になりたい!」などと立候補者が続出し、枠を争うべく剣術の試合まで行われる始末。

全く、緊張感のかけらもない。

旧礼拝区画は、かなり焼け落ち方が激しく、焦げた柱や崩れた石材で埋まっていた。

皆で協力して瓦礫を取り除いていく。

ハルモンには危険なので、少し離れたところで作業を見学してもらっていた。

しばらく作業を進めていくと、ハルモンがこちらへ近づいてきた。

「あそこ……あるかもしれない」

ハルモンはそう口にして、区画に足を踏み入れようとする。

俺はとっさにその手を取った。

「足元が悪い、気をつけろ」

「過保護だなぁ、カライス君は」

「危ないからこのままでいい。……ちゃんと足元見ろ」

慎重に、崩れた建物の上を進んでいく。

そして、ハルモンの示す付近に辿り着き、瓦礫を除けると、そこからは焼け焦げた何かが出てきた。

(これは……遺体か?この場所にあるということは、繋ぎ手様の……?)

「あ!」

ハルモンは、人の遺体のようなものの、ちょうど下腹部にあたる場所へ、躊躇いなくスコップを差し込んだ。

「おい、待てハルモン……。それ人の遺体なんじゃ」

「うん。少し待ってて。……あ、見つけたよ」

そう言うとスコップを差し入れていた場所に手を入れ、”それ”を取り出す。

「すごい……!これが生まれたばかりの原石か。……なんだか、触ると不思議な感じがする。まるで、何かと繋がっているような……」

すると、少し離れたところで作業をしていた騎士たちも、こちらの様子に気がついたようだ。

作業を止めて、こちらへ集まってくる。

「見つかったのかー?」

「……そのようだ。手伝い感謝する」

「いいんだよこれくらい。……いずれは片付ける必要あったしな」

ハルモンもその場から立ち上がり、騎士たちに礼を伝えていた。

俺は、目の前の遺体のようなものにまた目を向ける。

その下腹部には、スコップで掘られてぽっかりと穴が開いていた。

(……これは、あまりいい気分じゃないな)

「カライス君も、ありがとう!」

視線を上げると、笑顔を浮かべたハルモンがこちらへ近づいてくる。

「あ、そこ危ないぞ。……用が済んだなら、もう戻ろう」

「うん」

ハルモンの体を支えつつ、崩れた建物の上から降りると、俺たちは旧礼拝区画を後にした。












▼続きはこちら

▼前の話はこちら

脳が焼けたら、そっと押してください

ブログランキング・にほんブログ村へ

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

関係性オタク。
成立しない関係を、成立させてしまう物語。
救いより納得。
読むと、脳が焼けます。
構造分析×一次創作
添削・相談もやってます。

コメント

コメントする

目次