一次創作『ラクリマ・ディアの連結子』の第二章です。
救いは、いつも正しいとは限らない。
人を救うために差し出された手は、 どこまで届き、どこから壊れていくのか。
魔導士と剣士。
二人の関係が、静かに形を変えていく物語。
——その選択が、すべてを変えるまで。
◾️あらすじ
港町マレディアを襲った炎は、
すべてを奪い去った。人々を救うため、ハルモンは力を使い続ける。
その代償として、自らの身体と日常を失いながら。“女神”と呼ばれる存在と、
それを支える騎士。救いは、本当に正しいのか。
その選択が、二人の関係を大きく変えていく――。
七日目の朝。
俺は今日も朝食を届けに、ハルモンの天幕を訪れた。
「ハルモン、入るぞ」
「はーい」
中に入ると、天幕内に薬の匂いが充満していた。
見ると、床や寝床の上まで、薬草と薬道具が広げられており、足の踏み場も無いような状況だ。
ハルモンは鼻に眼鏡をかけており、真剣な表情で何かを混ぜている。
「……元気になったと思ったらこれか」
「つい楽しくなっちゃって……。なんか、朝は頭も冴えてて良いね。……これからは心を入れ替えて朝型になろうかな」
「できるといいな。……とりあえず一回片付けろ。朝飯を置く場所もないぞ」
「ごめんごめん!ちょっと待ってね」
散らかったものをひとまず端に寄せ、食事を置いた。
「……今日はどうする。また出かけるなら付き添うが」
「そうだなぁ。採集もいいけど……とりあえず今やってる調合を試し終わってからにするよ。今良いところなんだ。『朝日が眩しくなくなる目薬』」
「……なんて?」
「この間、朝日が眩しかったから。徹夜明け限定で、朝日が『まあまあ我慢できる』明るさになるよ!」
「徹夜するな。寝ろ」
昼食を食べ終えた午後。
僕は昼寝をしようと天幕の寝床で横になっていた。
すると、枕元に置いてあった《連結子》が輝き出した。
手に取って起き上がり、寝床に座り直す。
『ハルモン、よかった。もう起きていたか』
「……もう。父さんは、僕がいつも昼まで寝てるみたいに」
『実際寝ているじゃないか……。それより、昨日の魔道院での会合で火災の話が出てな。マレディアの旧礼拝区画から『女神の涙』が取れるのではないかと』
「あー……。それを確認して来いってこと?」
『いや、教会側との話し合いはもう終わっている。もし見つけたら、王都へ持って返って来てくれ』
「……わかった。けど、ちょっと時間かかるかもよ?」
『もちろん、分かっている。……体調もまだ万全ではないだろう?話は通しておくから、ゆっくり戻って来い』
「はーい」
《連結子》が静かになると、僕は寝台に寝転んだ。
(『女神の涙』。自分で採集するのは初めてだな。……正直、一人で掘るのは体力的にキツそう。明日、カライス君に頼んでみるか……)
そう算段をつけ、僕は目を閉じた。
八日目の朝、カライス君が朝食を持ってきてくれたときに、僕は「手伝ってほしいことがある」と切り出した。
「なんだ?」
「昨日、父さんから仕事を頼まれたんだ。マレディアには礼拝堂があっただろう?その区画に、これの材料があるかもしれないから、あれば取ってきてくれって」
これだよ、と《連結子》を取り出して見せる。
カライス君は、怪訝そうな表情を浮かべた。
「確か、貴重な材料を使っていると言っていたな。……だが、なぜその場所に?」
「材料は『女神の涙』って呼ばれてるんだけど、祈りの力が結晶化したものなんだって。だから、女神由来の場所で見つかることが多いって聞いた」
「そうか……。だが、あそこも完全に焼け落ちてしまっているぞ」
「……燃えた建物を除けて、掘り起こすしかないね。……僕一人じゃ、とても無理なんだ。だから、手伝ってほしい」
そう伝えると、カライス君はしばらく黙った後、諦めたように息を吐いた。
「……仕方ないな。手の空いてる奴がいたら、作業を手伝ってもらえるよう、声をかけておく」
「本当!?助かるよ!ありがとう〜!……あ、そうだ!」
鞄に手を突っ込んで、ゴソゴソと探る。
中から薬瓶をひとつ取り出すと、カライス君に見せた。
「これ前に作った『筋肉痛が一瞬だけ消える塗り薬』なんだけど、お礼に配ろうかな」
「……一瞬……?意味、あるのか……?」
カライス君は薬瓶を手に取る。
少しだけ眺めた後、何も言わずに僕の鞄にそっと戻した。
ハルモンの仕事を手伝うため、俺と騎士の同僚たちは旧礼拝区画を訪れていた。
俺が応援を呼びかけたところ、「女神様の力になりたい!」などと立候補者が続出し、枠を争うべく剣術の試合まで行われる始末。
全く、緊張感のかけらもない。
旧礼拝区画は、かなり焼け落ち方が激しく、焦げた柱や崩れた石材で埋まっていた。
皆で協力して瓦礫を取り除いていく。
ハルモンには危険なので、少し離れたところで作業を見学してもらっていた。
しばらく作業を進めていくと、ハルモンがこちらへ近づいてきた。
「あそこ……あるかもしれない」
ハルモンはそう口にして、区画に足を踏み入れようとする。
俺はとっさにその手を取った。
「足元が悪い、気をつけろ」
「過保護だなぁ、カライス君は」
「危ないからこのままでいい。……ちゃんと足元見ろ」
慎重に、崩れた建物の上を進んでいく。
そして、ハルモンの示す付近に辿り着き、瓦礫を除けると、そこからは焼け焦げた何かが出てきた。
(これは……遺体か?この場所にあるということは、繋ぎ手様の……?)
「あ!」
ハルモンは、人の遺体のようなものの、ちょうど下腹部にあたる場所へ、躊躇いなくスコップを差し込んだ。
「おい、待てハルモン……。それ人の遺体なんじゃ」
「うん。少し待ってて。……あ、見つけたよ」
そう言うとスコップを差し入れていた場所に手を入れ、”それ”を取り出す。
「すごい……!これが生まれたばかりの原石か。……なんだか、触ると不思議な感じがする。まるで、何かと繋がっているような……」
すると、少し離れたところで作業をしていた騎士たちも、こちらの様子に気がついたようだ。
作業を止めて、こちらへ集まってくる。
「見つかったのかー?」
「……そのようだ。手伝い感謝する」
「いいんだよこれくらい。……いずれは片付ける必要あったしな」
ハルモンもその場から立ち上がり、騎士たちに礼を伝えていた。
俺は、目の前の遺体のようなものにまた目を向ける。
その下腹部には、スコップで掘られてぽっかりと穴が開いていた。
(……これは、あまりいい気分じゃないな)
「カライス君も、ありがとう!」
視線を上げると、笑顔を浮かべたハルモンがこちらへ近づいてくる。
「あ、そこ危ないぞ。……用が済んだなら、もう戻ろう」
「うん」
ハルモンの体を支えつつ、崩れた建物の上から降りると、俺たちは旧礼拝区画を後にした。
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