#3喪失の帰還

一次創作『ラクリマ・ディアの連結子』の第二章です。

救いは、いつも正しいとは限らない。

人を救うために差し出された手は、 どこまで届き、どこから壊れていくのか。

魔導士と剣士。

二人の関係が、静かに形を変えていく物語。

——その選択が、すべてを変えるまで。

◾️あらすじ

港町マレディアを襲った炎は、
すべてを奪い去った。

人々を救うため、ハルモンは力を使い続ける。
その代償として、自らの身体と日常を失いながら。

“女神”と呼ばれる存在と、
それを支える騎士。

救いは、本当に正しいのか。
その選択が、二人の関係を大きく変えていく――。

時は少し戻る。

雨の中突如招集を受け、敵の奇襲攻撃をマレディア港湾騎士団の一員として迎え撃った俺は、戦後の事後処理を終えて、帰還の準備をしていた。

奇襲攻撃だったにも関わらず、勝敗はこちらの勝利。

しかも損害もそれほど大きくなかった。

そのことに違和感を覚える仲間も多く、俺自身もそう感じていた。

その理由が判明するのに、さほど時間はかからなかった。

「おい!皆聞いてくれ!いま街から早馬が来て……街が……全焼したそうだ……!」

「なんだって!?」

「———っ!」

「敵の陽動か……クソッ!街には家族がいるんだぞ!」

「戻ったらすぐ救助活動に移る!帰還するぞ!」

降り止まぬ雨にぬかるんだ道を、騎士たちは歩む。

早く帰り着きたいと、気持ちだけが先に進むが、雨の中の行軍はなかなか進まない。

騎士の正義と誇りも、この時ばかりは鎖のように感じられた。

まるで永遠に続くかと思う地獄の行進。

焼け落ちた街にたどり着いた時には、すでに日が落ちて暗くなっていた。

焼け焦げた匂い。

崩れ落ちた建物の影。

人の気配が感じられない。

そして、騎士団が帰還したにもかかわらず、出迎えもない。

国で一番の港町マレディアは、たった一日で壊滅状態となってしまっていた。

「家族の安否が気になる者も多いと思うが、騎士団として、人命の救助を最優先に。天幕を張って、怪我人はそちらに運ぶぞ!」

俺は辺りを見回しながら街を進んでいく。

途中、自宅の前を通りかかる。

暗くてよく見えなくても、何も残っていないことは分かってしまった。

毎日暮らしていた家だから。

「カライス!」

振り向くと、近所に住んでいた女性が駆け寄ってきた。腕には赤子が抱かれている。

「ごめんなさい……私……私のせいなの……!」

「どうした……一体何が……」

「エルナさんが……うちの母と、この子を助けてくれたの……でもそのせいで巻き込まれて……うっ……ごめんなさい……」

「………………」

帰還中、歩きながらずっと嫌な予感がしていた。

エルナは、困った人がいたらいつも助けていた。

店の手伝いも、子守りも、他にも数えきれないくらい。

——だからこそ、嫌な予感がしていた。

自分の身が危険な状況でも、人を助けることを優先するんじゃないか。

いや、そうとは限らない……自分の身を守り、上手く逃げ延びて、生きていてほしい。

——生きていてほしかった。

そう思ったら、視界が歪んで、溢れた涙が頬を伝っていった。

その場に立ち尽くしていたところ、急に周囲が慌ただしくなる。

燃え残った石造りの倉庫に、怪我人が集められているらしい。

運び出して天幕に移動させよう、という話になっているようだ。

俺は涙を拭うと、石造りの倉庫へ向かって歩き出す。

そこで、予想もしなかった人物の姿が目に入った。

「……ハルモン!?あいつ、どうして……」

ハルモンはフラフラと歩いていたかと思うと、躓いて転び、そのまま地面に倒れ込んだ。

周りにいた騎士団員たちが慌てた様子で集まってくる。

俺も遅れて駆けつけた。

「ハルモン!」

「カライス、この魔導士様とは知り合い?」

「ああ……昨日、ここで会っていたんだ」

「街の人の話によれば、この魔導士様は昼間からお一人で怪我人の治療をされていたようなの。この人数を、たった一人で……」

「…………ハルモン……」

担架に乗せられ、天幕へ運ばれていくハルモンを見送る。

その後、皆と協力して怪我人を天幕へ運び出す。

意識のある人は、ハルモンにすごく感謝していた。

一部からは天使だの女神だの言われており、こんな状況でもちょっと笑えて、それでまた、涙が溢れた。














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この記事を書いた人

関係性オタク。
成立しない関係を、成立させてしまう物語。
救いより納得。
読むと、脳が焼けます。
構造分析×一次創作
添削・相談もやってます。

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